子供とコーヒーの話
高校生くらいからブラックでもコーヒーを飲めるようになった。
別に大して美味しいとかそういうのでもなく、家で簡単に飲めるのが麦茶か緑茶かコーヒーの三択だっただけで、この家に16年も住んでいたらコーヒーも飲まざるを得なくなったのだ。
簡単に飲む分なので、「ネスカフェ エクセラ」というインスタントコーヒーから始まった。
スプーン山盛り一杯くらいをマグカップに入れ、お湯を沸かし注ぐ。
簡単で、それなりなコーヒーが飲めた。
やはりインスタントコーヒーなだけあって、ドリップした時のような透明感はなく、ブラックのままでは風味も薄いので牛乳を少し入れて飲んでいる。
最近は兄弟もそれなりに大きくなってコーヒーを飲む人口が増えたので、よく貰い物でコーヒー豆を貰うようになった。
コーヒー豆の用意も勿論大切なのだが、美味しくコーヒーを飲むためには美味しいお菓子と共に飲むのが一番なのだ。
趣味でよくケーキやお菓子を買って帰るので、母とともにデザートとして少しいいお菓子を食べながらコーヒーを飲むのが楽しみの一つである。
コーヒーメーカーもあるのでいただいたり買って来たりした豆を入れてコーヒーメーカーで作って飲むのも悪くはない。
豆の方が香りも飛びにくいし挽きたてなのでとてもいい香りがする。
でも毎日やるには少し贅沢な感じがする。
そこで、簡単に一杯分をドリップできるコーヒーフィルターを買ってきて、粉の状態のコーヒーを使って飲むようになった。
お湯を沸かしながらマグカップに開いたフィルターを乗せ、専用のスプーンで粉を入れてドリップする。
インスタントコーヒーより少し時間はかかるが、誰かのために淹れるのは少し楽しい。
今までコーヒーの味なんてただ苦いか少し酸味が強いとかそんなことしかわからなかったのに、最近善し悪しが分かるようになった。
もとより酸味の強いコーヒーは苦手だった。
近所のコーヒー屋さんに手土産として豆を買いに行った時、豆を選ぶとその場で焙煎をしてくれるのだが待ち時間にその日のオススメの豆のコーヒーが出された。
名前は忘れてしまったのだが南国のような感じで、酸味が爽やかな香りを引き立てており軽めのローストで紅茶のようにさらりと飲むことができた。
やはりコーヒー屋さんなので、風味や香りを生かした淹れ方がとても上手なのだ。
風味や香りを楽しめるくらいには、コーヒーを飲むようになっていた。
先日も母といったカフェでランチをしたところ、ドリンクバーと称して様々な飲み物が置いてある中にコーヒーがあった。
食後に飲む癖があったので、温かいコーヒーをカップに注ぎ席に戻る。
こんなカフェのコーヒーなので安心しきっていたのだが、なんとあまり美味しくなかった。
長らく保温されていたせいか、煮詰まったような味がした。
苦味だけが強くコーヒーの香りもしない。あの吹き抜けるようなコーヒーの爽やかさは失われていた。
淹れてしまったものはしょうがないので、アレンジ用に置いてあったフレーバーシロップを淹れて飲み干した。
今までお茶に飽きた代打としてのコーヒーが、いつの間にか"いつものコーヒー"になっていた。
味など苦味だけで変わらないと思っていたものも、だんだん違いを知って好みが出てくるようになった。
代わりに、甘くて好きだった駄菓子が食べられなくなったり小さい時に好きだった味が分からなくなってしまった。
"大人"の定義はまだ分からないが、"劣化"は確実に起こってくる。
劣化ながらに楽しめる事が増えるというのも、悪くない事かもしれないと思った。